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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)200号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第二号証(願書添付の明細書)、第三号証(昭和五五年一一月二六日付け手続補正書)及び第四号証(昭和五六年六月一八日付け手続補正書)によれば、本願発明は左記のとおりの技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙第一図面参照。なお、右昭和五五年一一月二六日付け手続補正書による発明の詳細な説明の字句の訂正については、引用箇所の摘示を省略する。)。

(一) 技術的課題(目的)

本願発明は、インピーダンスあるいは他のパラメータ及び特性の自動測定のための方法及び装置、特に、マイクロプロセツサ型計算技法を組み込む方向で簡略化された測定ステツプと計器用法を提供することに関する(明細書第一二頁第一八行ないし第一三頁第二行)。

従来、インピーダンスの測定には、ブリツジを用い、ブリツジの相対する要素のインピーダンスの積が等しくなるように(すなわち、ブリツジが平衡するように)所定の可変インピーダンスを調整する方法があつた。しかしながら、この方法は、可変インピーダンスの調整に当たり、試行錯誤によつて所望の値を求めるものであるのみならず、長時間にわたる回路要素及び標準器の制御や安定を必要とし、かつ、それらの校正も必要であるとの難点があつた。もつとも、ブリツジの平衡を得るために調整要素を使用しないインピーダンスの測定法として、インピーダンスメータを用いる方法もあつたが、この方法にも、未知インピーダンスの端子間電圧を一定に保つか、その間を流れる電流を一定に保たねばならないとの問題点があつた(同第一三頁第八行ないし第一五頁第一一行)。

本願発明の目的は、従来の技術の問題点を解決して、インピーダンスの自動測定のための新規で改良された方法及び装置を提供すると共に(同第一五頁第二〇行ないし第一六頁第四行)、マイクロプロセツサあるいは同様の計算機回路と協動してインピーダンス測定あるいは関連する測定を行う新規なインピーダンスの測定法及び回路装置を提供し、併せて、自動インピーダンス測定分野のみならず他のパラメータを決定することにも応用し得る、簡略化された測定ステツプ及び装置を提供することにある(第二〇頁第五行ないし第一三行)。

(二) 構成

本願発明は、前記課題を解決するために、その要旨とする構成を採用したものである(昭和五六年六月一八日付け手続補正書第三丁第一行ないし第一三行)。

(三) 作用効果

本願発明によれば、基本的に種々の回路網形態のマイクロプロセツサに確実な計算能力を新規に組み込むことによつて、ブリツジの試行錯誤的な平衡法を用いることなく、また計器の電圧及び電流の安定性も必要とせず、従来のインピーダンス測定方法におけるように長時間にわたる回路要素の安定性も必要としないので、より簡単に測定を行い得るとの作用効果を奏する。のみならず、本願発明は、インピーダンス測定の自動操作を改革化し得ることを見いだしたものである(明細書第一五頁第一二行ないし第二〇行)。

2 一方、成立に争いない甲第五号証(別紙第二図面参照)によれば、引用例は、容量素子や誘導素子の定数を測定する積分形回路素子測定装置に関するものであつて、(第一欄第三三行及び第三四行)、従来、純粋の抵抗あるいはリアクタンス等以外の成分から成る不純要素を含んだ回路素子に対するインピーダンス測定には交流ブリツジ法が用いられていたが、この方法はブリツジ回路を平衡させるために標準となる回路素子の調整を行う必要があるのみならず、位相誤差を最小にするために高価な回路部品や複雑な回路構成を必要とし、装置全体が高価になり調整工数が増す割には信頼性に欠けるとの難点があり、また、標準素子(以下「標準要素」という。)と供試素子(以下「未知要素」という。)に等しい電流を供給すると共に両要素の端子間電圧を差動増幅器によつて検出し未知要素のインピーダンス値を測定する方法もあつたが、この方法も高精度の測定ができずガードを必要とする難点があつたとの知見に基づいて(第一欄第三五行ないし第二欄第三〇行)、その特許請求の範囲に記載されているとおりの構成を採用したものであつて(第一欄第一九行ないし第三一行)、右構成の積分形回路素子測定装置は、標準要素と未知要素とを直列接続してその一端には基準信号、他端にはこれと逆位相の可変信号をそれぞれ供給し、右直列回路の両要素の共通接続点における電圧(又は電流)を零にするように前記可変信号の大きさが自動調整され、次いで、前記零電圧の平衡時における可変信号を基準信号に対してこれと同相成分及び直角成分に分離し、これら同相成分又は直角成分の大きさに対応した直流信号で積分コンデンサを初期レベルから充電すると共に、この充電された積分コンデンサを一定の直流電圧で初期レベルに至るまで放電し、これら充電時間に対する放電時間の比をカウンタで計数することによつて、未知要素の定数値がデイジタル表示されるとの作用効果を奏するものであると認められる(第三欄第五行ないし第二一行)。

そして、本願発明と引用例記載の発明との一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは、原告も認めて争わないところである。

3 「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味」である電圧信号について、

審決は、その第五頁第一〇行ないし第一九行において、一般に未知要素の測定のために標準要素と未知要素に同じ電流を流して各要素の端子間電圧を検出する場合、各要素の端子間電圧は「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味」なものであると判断しているところ、原告は右判断は誤りであると主張するのでその当否を検討する。

(一) まず、本願発明の要旨にいう「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味であるが、インピーダンスの値に対する論理的比率関係式を有する値の電圧信号」の技術的意義を考えるに、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には左記の記載があることが認められる(なお、右昭和五五年一一月二六日付け手続補正書による字句の訂正については、引用箇所の摘示を省略する。)。

<1> 二つの基準E1及びE2(別紙第一図面第2図)からそれらの各々と同位相のEx及びEsの両者の位相成分が得られる(例えばEsp1はE1と同相のEsの位相成分である。)。この四つの量から(中略)第2図の数式Ⅰ及びⅡから明らかなように、必要とされる比率がマイクロプロセツサで即座に電子的に計算される。更にその結果は基準とEs間の角度φに依存しないので、発生される正弦波試験信号ftはどんな位相でもよいばかりか、短い測定時間の間一定である限り弁別器は任意の位相ずれ、任意の利得を有することができる(第二九頁第一九行ないし第三〇頁第九行)。

<2> 第2図から明確なように測定は従来技術のブリツジのアナログ位相移動測定及び同様なものとは全く違つており、基準としてExを使用しない。反対に九〇度の基準E1及びE2が使われて、それぞれZx及びRsの端子間電圧(IZx及びIRs)であり、インピーダンスに関する限りそれ自体無意味な数値を構成しているEx及びEsの二つの測定(一つの測定は各基準に対して)が行なわれる。第2図でE2は縦座標としてE1は横座標として、Ex及びEsで後者は位相角φで示された測定ベクトルと共に描かれる。E2縦座標上のベクトル投影はExp2及びEsp2であり、E1軸上の対応する投影はExp1及びEsp1である。数式Ⅰ及びⅡは比率Rx/Rs及びXx/Rsがマイクロプロセツサでこれらの測定量から計算される方法を示している(第三三頁第一行ないし第一六行)。

右の各記載によれば、本願発明は、ブリツジを利用し未知要素Zxの端子間電圧Exを測定を行うための基準信号として用いていた従来のインピーダンス測定方法とは異なるものであつて、本願発明の測定方法のベクトル図である別紙第一図面第2図をみると、縦座標及び横座標として九〇度の位相差を有する直角座標としては基準E1及びE2を用いているが、未知要素Zxの端子間電圧Ex及び標準要素Rsの端子間電圧Es、並びに右基準E1、E2間のベクトル位相関係については、E1とE2が九〇度の位相差を有するほかは、端子間電圧Exと基準E1との間に任意の位相角φが存するのみである。そして、端子間電圧Ex及びEsの二つの測定においても、それらの端子間電圧Ex及びEsの絶対位相量や位相関係を考慮する必要がなく、単に、端子間電圧Ex及びEsの、基準E1及びE2に対する成分値が得られればよいことになる。したがつて、右二つの測定とは、具体的には基準E1及びE2に対する端子間電圧Ex及びEsの成分値Exp1・Esp1・Exp2及びEsp2である四つの量を得ることにほかならないが、成分値である右四つの量は、任意の位相角φが変更されれば当然に変わるものであるから、成分値Exp1・Esp1・Exp2及びEsp2自体は、標準要素Rsや未知要素Zxの「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味」な数値であるというべきであつて、結局、本願発明の要旨にいう「電圧信号」とは、右成分値Exp1・Esp1・Exp2及びEsp2である四つの量を意味するものであると理解することができる。

そして、本願発明は、別紙第一図面第2図の式Ⅰ及びⅡに示されているように、右成分値Exp1・Esp1・Exp2及びEsp2である四つの量から、必要とされる比率、具体的には

Rx/Rs=(Exp1・Esp1+Exp2・Esp2)/(Esp12+Esp22)

及びXx/Rs=(Exp2・Esp1-Exp1・Esp2)/(Esp12+Esp22)

を、マイクロプロセツサによつて即座に計算するのであるが、右比率Rx/Rs及びXx/Rsは、それぞれ、比例関係式の形を有しているから、本願発明の要旨にいう「論理的比率関係式」とは、右式Ⅰ及びⅡを意味するものであると理解することができるのである。

以上のとおり、本願明細書は、特許請求の範囲の欄も含めその記載にやや不備な点がないとはいえないが、本願発明の要旨にいう「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味であるが、インピーダンスの値に対する論理的比率関係式を有する値の電圧信号」の技術的意義が明瞭でないとすることはできない。

(二) ところで、審決は、周知例として三つの特許出願公報を挙げ、それらが検出する端子間電圧も「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味」なものであると判断している。そこで、これらの周知例の技術内容をみるに、

a 成立に争いない甲第六号証によれば、昭和四八年特許出願公開第一五五七四号公報に記載されている発明(別紙第三図面参照)は、静電容量測定装置に関するものであつて(第一頁右下欄第八行)、被測定試料(以下「未知要素」という。)Cx及びRxは直列抵抗KR1を介して電源Sに接続し、標準コンデンサ(以下「標準要素」という。)の一方Cs1には直接、標準要素の他方Cs2には未知要素Cx及びRxとバツフアアンプAoを介して、それぞれ電源Sの交流電圧Vsを供給し、演算増幅器A1及びA2を含む回路によつて標準要素Cs1及びCs2、並びに未知要素Cx及びRsとに流れる電流をそれぞれ電圧e1、e2に変換し、掛算器M1及びM2、同期整流器D1及びD2、積分器I1及びI2等を含む回路を用いて、電圧e1及びe2から出力電圧E1及びE2を得るようにしたものであると認められるもので(第三頁左下欄第八行ないし右下欄第一六行)、審決では、右出力電庄E1及びE2を端子間電圧ととらえているものと考えられる。しかしながら、右公報には、各所に、出力電圧E1及びE2によつて被測定試料の静電容量及び損失係数が表されるとの趣旨が記載されているから(例えば、第三頁右上欄第一〇行ないし第一二行、第四頁右上欄第三行及び第四行、同頁左下欄第一行ないし第三行)、右出力電圧E1及びE2は未知要素のインピーダンスの値に関して意味があるといわざるを得ない。

なお、付言するに、審決は、右周知例として挙げた発明について「未知要素と標準要素に同じ電流を流し(両要素を直列に接続して単一電源から給電)」と認定しているが、右公報記載の実施例は標準要素Cs1及びCs2と未知要素Cx及びRxとが電源Sに直列接続されていないから、標準要素と未知要素に同じ電流が流れるものではない。

b 成立に争いない甲第七号証によれば、昭和五〇年特許出願公開第一六五七九号公報記載の発明(別紙第四図面参照)は、測定端子やレンジ抵抗に並列に存在する浮遊容量が測定機に与える影響を補償する容量測定装置の補償回路に関するものであつて(第一頁右下欄第一行ないし第四行)、別紙第四図面第1図に示されているように、被測定試料(未知要素)Cx及びRxとレンジ抵抗Rとから成る直列回路に交流信号電源Sが接続されてそれらのインピーダンス値によつて定まる電流が流れ、未知要素Cx及びRxによる電圧降下は演算増幅器A1に、レンジ抵抗Rによる電圧降下は演算増幅器A2にそれぞれ供給されて、それらの出力として出力電圧V1及びV2を得、掛算器M1及びM2、同期整流器D1及びD2、積分器11及び12等を含む回路を用いて、右電圧V1及びV2から出力電圧E1及びE2を得るものであると認められる(第二頁左上欄第八行ないし右上欄第一三行)。そして、この例においても、審決は、右出力電圧E1及びE2を端子間電圧ととらえているものと考えられる。しかしながら、同公報には「被測定試料の静電容量Cxおよび損失係数tanδxはそれぞれ(中略)直流出力電圧E1、E2によつて表されることになる。」と記載されているから(第二頁左下欄第八行ないし第一一行)、右出力電圧E1及びE2は未知要素Cx及びRxのインピーダンスの値に関して意味があることになる。

なお、付言するに、右公報記載の回路も標準要素Cs1及びCs2と未知要素Cx及びRxとは電源Sに直列接続されておらず、標準要素と未知要素とに同じ電流が流れるものではないことはa記載の発明と同様である。

c 成立に争いない甲第八号証によれば、昭和四九年特許出願公開第九〇五七三号公報記載の発明(別紙第五図面参照)は、被測定量に応じてインピーダンス値が変化するセンサを用いた計測装置に関するものであつて(第一頁左下欄第一四行ないし第一六行)、別紙第五図面第1図及び第2図に示されているように、固定インピーダンス2と被測定量によつて変化する可変インピーダンス3とから成る直列回路に交流信号電源1が接続されて、右直列回路にインピーダンス2及び3のインピーダンス値によつて定まる電流が流れ、固定インピーダンス2の端子間電圧E1及び可変インピーダンス3の端子間電圧E2は、それぞれインバータ4及び5を介してA/D(アナログ/デイジタル)変換器6に入力され、被測定量はA/D変換器6の出力として得られるものと認められる(第二頁左上欄第三行ないし右上欄第一六行)。しかしながら、右固定インピーダンス2を標準要素、可変インピーダンス3を未知要素と読み換え、かつ、計測装置をインピーダンス測定装置と読み換えたとしても、固定インピーダンス2及び可変インピーダンス3の各端子間電圧は両インピーダンス2及び3の値に直接関連したものであることは明らかであるし、A/D変換器6の出力電圧も被測定量を表すもので可変インピーダンス3の値に関連するものであるから、右出力電圧は未知要素(可変インピーダンス3)のインピーダンスの値に関して意味があることになる。

以上のとおりであるから、本願発明の端子間電圧は「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味」であるのに対し、周知例とされた発明の各端子間電圧はいずれもインピーダンスの値に関してそれら自体意味があるのであるから、三つの周知例を根拠として、一般に未知要素の測定に際し未知要素と標準要素に同じ電流を流す場合各要素の端子間電圧は本願発明と同様に「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味」であるとした審決の判断は、誤りである。

(三) この点について、被告は、本願明細書第三三頁第五行以下の「それぞれZx及びRsの端子間電圧(IZx及びIRs)であり、インピーダンスに関する限りそれ自体無意味な数値を構成しているEx及びEs」との記載からすると、本願発明の要旨にいう「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味」である電圧信号とは、同じ電流が流れている標準要素及び未知要素の端子間電圧を意味していることが明らかであり、その点において引用例記載の発明と格別の相違はないと主張する。

前掲甲第二号証によれば、本願明細書の第三三頁第五行ないし第七行に被告指摘の記載があることは事実である。しかしながら、同明細書には右記載に続いて、「の二つの測定(一つの測定は各基準に対して)が行われる。第2図でE2は縦座標としてE1は横座標として、Ex及びEsで後者は位相角φで示された測定ベクトルと共に描かれる。E2縦座標上のベクトル投影はExp2及びEsp2であり、E1軸上の対応する投影はExp1及びEsp1である。数式Ⅰ及びⅡは、比率Rx/Rs及びXx/Rsがマイクロプロセツサでこれらの測定量から計算される方法を示している。」と記載されていることは、前記((一)<2>)のとおりであつて、この後に続く記載によれば、本願発明は、端子間電圧Ex及びEsをそのままの形で測定しているのではなく、各基準E1及びE2に対する測定、すなわち端子間電圧Ex及びEsの各基準E1及びE2に対する成分値Exp1、Esp1、Exp2及びEsp2を示す四つの量を測定しているものにほかならないのである。これに対して、引用例記載の発明は、標準要素と未知要素とを直列に接続し両要素に同一の電流を流して両要素の端子間電圧をそれぞれ測定している限りにおいては本願発明の構成と同一ということもできるが、引用例記載の発明においては、測定された端子間電圧を位相が九〇度異なる二つの信号に変換した上、その変換信号から直接、未知要素のインピーダンス値を検出しているのであるから、右の測定された端子間電圧は結果的にはインピーダンスの値に関してそれら自体意味がある電圧信号として利用されているのであつて、被告の右主張は失当である。

4 インピーダンスの値に対する「理論的比率関係式」について

審決は、その第六頁第一二行以下において、「本願発明は、その理論的比率関係式とこれに係る電圧信号についてその具体的内容を構成要件中に特定、限定するところがない」とし、本願発明は未知量値導出についての比率に係る部分についても引用例記載の発明と格別差がないと判断しているところ、原告は右判断は誤りであると主張するのでその当否を検討する。

(一) 前記のとおり、本願発明の要旨にいう「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味であるが、インピーダンスの値に対する理論的比率関係式を有する値の電圧信号」において、電圧信号とは標準要素Rs及び未知要素Zxの成分値Exp1, Esp1, Exp2及びEsp2を示す四つの量を意味するものであり、また理論的比率関係式とは

Rx/Rs=(Exp1・Esp1+Exp2・Exp2)/(Exp12+Esp22)

及びXx/Rs=(Exp2・Esp1-Exp1・Esp2)/(Esp12+Esp22)

の二つの式Ⅰ及びⅡを意味するものであることは、本願明細書の記載から理解し得るところである。

もつとも、本願特許請求の範囲第1番目(本願発明)には、電圧信号及び理論的比率関係式の内容が具体的に限定されていないことは審決が説示するとおりであるが、本願明細書の発明の詳細な説明及び願書添付図面(別紙第一図面)にはそれらの具体的内容が一応開示されており、かつ、本願明細書の全趣旨によれば、電圧信号及び理論的比率関係式が右のように開示されているところと異なる内容をも含むものと解する余地はないのであるから、結局、本願発明における電圧信号及び理論的比率関係式の具体的内容は右開示のとおりであるといわざるを得ない。そうすると、本願発明の電圧信号及び理論的比率関係式は、引用例記載の発明におけるような「同一電流が流れる二つの要素の端子間電圧を利用し、一方の要素の端子間電圧及び、この電圧に対する他方の要素の端子間電圧の同相成分、直角成分に基づく電圧信号を得て、これら信号に係る比率から未知量値の実数、虚数成分を導出」するものをも含み、この点において引用例記載の発明との間に格別差がないとした審決の判断は、正当といえない。

(二) この点について、被告は、本願発明は理論的比率関係式をその要旨として認識しておらず、その限定を行う意思もないものである旨主張する。しかしながら、一般に、特許請求の範囲に記載されている「発明の構成に欠くことができない事項」すなわち構成要件を更に限定する必要がある場合とは、

<1> 構成要件の実施態様に多数のものが存在するが、そのうち一部のみが発明の目的ないし作用効果を達成し得るものであるとき、あるいは

<2> 構成要件の表現が適当でなく、それを文字どおり解釈すると、発明の本質的な構成要件以外の要件をも結果的に含んでしまうようなものであるとき

等であると考えられるが、本願発明が要旨とする理論的比率関係式については、前記のとおり、本願明細書にその具体的内容が開示されており、かつ、本願明細書の記載からは右開示事項以外の内容を想定することはできないのであるから、右の構成要件を更に限定する必要がある場合には該当しないというべきであつて、被告の主張は失当である。ちなみに、「理論的比率関係式」という用語は必ずしも一般的ではないが、別紙第一図面第2図に示されている式Ⅰ及びⅡを表すものとして不適当であるとはいえない。

(三) また、被告は、本願明細書第二〇頁第一六行以下の「第1図を参照すると、本システム(中略)最初にZxの端子間電圧Exの測定が行なわれて記憶され、その後Rsの端子間電圧Esの測定が行なわれる。(中略)これらの電圧は(中略)マイクロプロセツサへ(中略)供給されてEx/Esの比率を計算して、そこでZx/Rsの測定結果を得る。」との記載からすると、本願発明の要旨にいう理論的比率関係式とは右Ex/Esを意味するものと解さざるを得ず、そうであれば引用例記載の発明と格別相違はないと主張する。

前掲甲第二号証によれば、本願明細書の第二〇頁第一六行ないし第二一頁第一二行に被告指摘の記載があることは事実であるが、右部分は別紙第一図面第1図の技術内容を極めて概括的に記載したものにすぎず、理論的比率関係式の内容は、前記のとおり第二九頁第一八行ないし第三〇頁第九行及び第三三頁第一行ないし第一六行において具体的に記載されているのであつて、それによれば、本願発明の要旨にいう理論的比率関係式は、

Rx/Rs=(Exp1・Esp1+Exp2)/(Esp12+Esp22)

及びXx/Rs=(Exp2・Esp1-Exp1・Esp2)/(Esp12+Esp22)

という二つの式Ⅰ及びⅡであることが十分に理解し得ることである。そして、本願発明が要旨とする理論的比率関係式が右式Ⅰ及びⅡを意味するものである以上、それが引用例記載の発明のそれと異なることは明らかであるから、被告の右主張も失当である。

5 そうすると、本願発明は、測定された端子間電圧Ex及びEsに理論的比率関係式を適用することによつて、端子間電圧Ex及びEsの各基準E1及びE2に対する成分値

(Exp1, Esp1, Exp2及びEsp2)の量を得るもので、結果的に、右測定された端子間電圧Ex及びEsを「インピーダンスの値に関してそれら自体無意味」な電圧信号として利用しているのに対して、引用例記載の発明は、測定された端子間電圧を、結果的に、インピーダンス値に関してそれら自体意味がある電圧信号として利用している点において本質的な相違を有するものであつて、このことは本願明細書の記載から十分把握できる事項というべきであるから、本願発明と引用例記載の発明との相違点のうち「未知要素及び標準要素の端子間電圧について、これがインピーダンスに関する限りそれ自体無意味なものであつて、インピーダンスの値に対する理論的比率関係式を有する値の電圧信号を発生するためのもの」である点について、結局相違点における未知要素及び標準要素の端子間電圧に関する本願発明と引用例記載の発明との違いは設計上の微差にすぎないとした審決の判断は、誤りである。

以上のとおりであるから、審決は、引用例記載の技術内容を誤認して本願発明と引用例記載の発明の相違点の判断を誤つた結果、本願発明は引用例記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと誤つて判断したものであつて、違法であるから、取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

同一の交流電流を受信し、インピーダンスの値に関してそれら自体無意味であるが、インピーダンスの値に対する理論的比率関係式を有する値の電圧信号を発生するために接続された標準要素及び未知インピーダンス要素の端子間電圧を測定すること。

電圧信号値を対応するデジタル量に変換すること、

マイクロプロセツサを用いて前記公式に従つて前記量の比を自動的に電子的に計算すること、及び

前記未知要素のインピーダンス測定値を提供するために計算された比率を指示すること

から成る、インピーダンス自動計器測定方法。(別紙第一図面参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

<省略>

別紙第二図面

<省略>

<省略>

別紙第三図面

<省略>

別紙第四図面

<省略>

(以下省略)

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